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第67回 無意識の呼び声・震災後の新たな価値基準

 未曾有の大被害をもたらした東日本大震災から8カ月余。国難を前に国民の意識に変化が起こり始めた。マーケティング会社シタシオンジャパンと明治大学鈴木謙介准教授の実施した意識調査では、社会とのかかわりを重視する価値観が強く見られ始めるようになったという。キーワードは他者への貢献、地域とのつながり、モノより心、次世代志向だ。

震災後の社会生活における新たな価値基準『SQ』とは -- 関西学院大・鈴木准教授が提唱


● 「他人への思いやり」「環境への配慮」「助け合い」への意識が向上

調査では、コミュニケーション、ライフスタイルなどの社会生活全般における価値観を中心に現状意識を聞いている。
まず、様々な行動に対する意識の変化を聞いた質問では、震災前に比べて公共の場における思いやり・配慮や環境資源への考え方、道徳意識など、生活者一人一人の社会と前向きにかかわる意識が、日々向上していることが明らかになり、また社会生活で大切だと感じることを聞いたところ、「経済成長」「雇用創出」「グローバル化」という日本経済の課題よりも、「他人を思いやる心」88.9%、「他人との助け合い」83.1%、「環境への配慮」83%など社会生活と関わりが強い項目に関心が高いことが明らかになった。
今後大事だと感じることは?
今後大事だと感じることは?


 調査の詳細は記事を直接読んでいただくとして、鈴木准教授によれば「多くの人々の生活意識は、震災前後で社会性が高まっており、加えて現在の生活志向においても、周囲との関係性を重視する意識が見受けられた」という。さまざまな質問を通じて生活者の意識ベクトルを調査した結果、「社会とのかかわりを重視する意識」の表れとして4つのキーワードが浮上してきた。

1.    他者への貢献の心
2.    広範囲で協力(地域社会とのつながり)
3.    モノより心(金銭的価値よりも明確な目標、気遣い、思いやり)
4.    次世代志向(子どもや孫の世代を視野、エネルギー問題への関心)

 私はこれらの意識変化をおおむね良いものとして受け止めたい。日々の暮らしの過酷さから、つい他者への配慮を欠いた自分を日本人は反省しはじめている。みんなが力を合わせてこそ生き抜けるんじゃないか、と。無縁社会化の進行に疑問を感じた人々は、これから地域社会を再構築し、故郷・郷土の姿を取り戻そうとするかもしれない。命を金銭という数量に換算できないことも思い出しただろう。将来への明確なビジョンを見つけ出そうと努力する人々はすでにたくさん現れている。心が変われば行動が変わるのだ。変化は心の内にある。

 東日本大震災ではあまりに多くの尊い命が失われた。誰もが人の死という厳然たる事実に直面せざるを得なかった。いつ来るかは無規定的だった可能性としての死が、今や誰にとっても切迫したものとなった。死にたいして向き合い、態度を取り、関わらざるを得なくなった人々は、己の本来あるべき姿を模索し始めた。震災は大不幸だったが、一方で人々の良心を呼び起こしたともいえるのではないか。

 他方で顧みられなくなってきた価値観もある。「グローバル化」だ。経済成長や雇用創出には77%の関心が寄せられているのに、グローバル化への関心は49%と低迷している。



 これは冷静に考えれば当然のことかもしれない。国民は復興を第一に考えている。長期的に見て、被災地の復興は経済的な回復と雇用創出を通じて達成されるしかないだろう。誰も経済が大事なことを忘れてはいない。だがTPPが震災復興に何ら寄与しないことからも分かるように、グローバル化を推し進めても復興が成し遂げられることはないのだ。そのことをどうやら国民は無意識のうちに気づいているらしい。

 今、国中の人々はすぐそばにいる人、親しい隣人、苦しむ被災者へ心を寄り添わせようとしている。そういう共感と隣人愛へ目覚めつつある精神に、農産物自由化だの、非関税障壁撤廃だの、外国市場への進出だの、肌身で感じるぬくもりに欠けた言葉が介入する余地などないのかもしれない。

 思いやり、協力、気遣い、将来への配慮。どれも人間が社会生活を営んでいく上で重要な価値ではないか。災害列島日本に住む人々は、いつの時代も地震・津波に襲われるたび、人が生きるということの根本に思いを巡らしてきたろう。我々の世代もまた同じことを繰り返すばかりだ。

 政治の混迷は問題だろう。財界の不道徳もとどまるところを知らない。しかし国民の正気は健在している。民族の集合的無意識が発動しはじめている。失望、いわんや絶望する必要など、どこにあるだろうか。今は心の声に耳を澄まし、胸を張って進むべき時だ。

 日本は少数の英雄がつくりあげた国ではない。無慮無数の庶民が創意工夫の限りを尽くしてつくりあげた国だ。日本人は根暗な民族ではない。戦後の焼け野原を「りんごの歌」を歌いながら世界がうらやむ摩天楼へ変えてみせた民族だ。東日本大震災は確かに試練だが、その試練は日本人によってのみ乗り越えられる試練だろう。



 忘れてはいけない。すでに日本人は高貴な精神性を示し世界を驚嘆させている。すでにして偉大さを世界に示しているのだ。困難において民族の精神はますますその輪郭をくっきりと表し始めている。


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